領域について
光化学は、エレクトロニクス、エネルギー、医薬・医療、機能性材料など現代社会において多様な貢献を期待されています。その根幹を司るドナー・アクセプター(D•A)相互作用では、今まで電荷移動(CT)を、クーロン相互作用による「静的エキシトン(クーロン力によって束縛された電子と正孔の対の状態及びその概念、と定義)」として捉えてきました。しかし、D•A系ではそれ以外にも、核や格子の運動、スピンと軌道の相互作用などが動的効果として時間発展的に働くために、従来の捉え方では破綻をきたしています。例えば近年、有機太陽電池(OPV)の発展が目覚ましいですが、この光電流生成の仕組みを静的な枠組みで理解するには限界があり、高効率OPV実現の足かせになっています。さらに、光反応初期におけるこの動的効果を正しく理解するための、精密計測や理論体系は未開拓です。従って人類がD•A相互作用を自在に操るにはほど遠い状況にあり、OPV、有機発光素子(OLED)の高性能化のみならず、光を使った医薬・医療、有機材料の新規機能実現の深刻なボトルネックになっています。 本領域では、動的エキシトン効果を利用する精緻な分子設計と、本研究メンバーが独自に構築してきた、世界を先導する高分解能計測・理論的精密解析による分野融合により、上記課題解決を目指します。また光励起CTにおけるスピン状態を含めた、電子状態間の変換による多様な光機能開拓を、動的相互作用の深い理解に基づく、分子構造と運動性の巧妙な時空間制御の実現を目指します。
領域代表 今堀博(京都大学大学院工学研究科・教授)
研究期間 令和2~6年度
領域番号 20A201